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背負った罪を半分ずつ分け合ったところで何も薄れることはない。贖罪の代わりに胸に抱いたものは、私にとっては苦しみとはかけ離れていた。だからこそ許すなんて選択肢はこの部屋の中に決して存在しない。
「源、酢豚好きでしょう?作ったの、食べて」
笑う私と、泣きそうな顔をする源。
リビングで聞き耳を立てている理一はきっとどんな表情も浮かべてはいない。
「…ああ、ありがとう」
この部屋の中にはいつだって昏い過去がこびりついている。
***
上機嫌に酔っ払った源が帰って行ったのは夜の十二時を過ぎてからだった。源はここから歩いて三十分、自転車で十分の場所に住んでいる。なので終電の心配はない。
飲酒運転はいけないのでと行きは歩いてここまで来たらしいが、帰りはどうしたのだろう?千鳥足でこの部屋を出て行ってからの源の行方はわからない。
「どうせタクシー捕まえたか酔い覚ましにふらふら歌いながら帰ってるんじゃねえの」
「それならいいけど連絡ないから心配だよ」
「酔って携帯見てないんだろ。女の子なら心配だけど、あんなデカい男の夜道なんか心配しなくていいよ。勝手に帰るだろ」
「源のことになると冷たいんだから」
「俺は基本こんなもんだよ」
理一は源には冷たい。これは昔から変わらない。
他の人には分け隔てなく誰に対しても親切に接するのに、源のことは邪険に扱う。それは逆に気を許し合った関係だからなのだと知っている。
男の人同士のそういうさっぱりとした関係を羨ましいと思うのは、どうしてもその枠組みの中に自分が入れないからだろう。
どれだけジェンダーレスが進んだとしても、男と女が違う生き物であることには変わりない。紀元前から人間という生き物のシステムの中で根付いてきたその認識を取り払うことは難しいだろう。
だからこそ私も男なら良かったかもしれないと時々思う。
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