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―――驕ってるわけじゃない。
でも後悔の上にしか立てない人間もいるのだ。
たとえ自分の意志では別の選択肢なんて選べなかったとしても、それでも理一と私が出会って兄妹になった―――それは過ちで、悲劇だった。
後悔に苛まれることだけが、
身勝手な私と理一の犯した罪の代償だから。
「菜々?」
切り干し大根の盛られたお椀をテーブルの上に置きかけたまま、思考を昼間の織木との会話まで遡っていた私は、理一の声に頬を叩かれる。
それで我に返ると、目の前には心配そうに私を覗き込む理一。色素の薄い瞳の中に住む私は酷く情けない顔をしていた。
「どうした?」
理一の手が頬に触れた。綺麗で優しい手。
その手に縋りついて、硬くごつごつとした体に抱きしめられたい。
けれど皮膚の内側で暴れ回るその衝動が許されざるものだということを、私も理一も悲しいほどに知り過ぎていて、それはもうどうにもならない。
世界に背を向けたのは私たちが先だった。
だから今その代償を私たちが払うことは、とても自然な摂理だ。
「…なんでもないよ」
それを私も理一も知りすぎていて、だから理一は下手くそな笑みを浮かべる私に気づいていながらも、何も言わない。
「早く食おう、飯が冷める」
私たちは歴とした兄妹だ。
血の繋がりはなくともそれは決して変わることがない。自分たちの間に横たわるその肩書きに抱きしめられながら、そして同時に首を絞められている。
私と理一は袋小路のようにどん詰まりなこの部屋の中で、ふたりぼっちの逃避行をいつまでも続けている。窓ガラスを叩く雨が、悲しみに彩られた昏い過去を連れてくる。
どこにも行けない私たちは、
赤い雨にいつも濡れている。
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