葉月に線香花火を焚いて

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同じ箱の中に乗り合わせてみた面々は三人の子供を連れた家族と、夫婦と思しき男女二人組。彼らから見れば私と理一は兄妹ではなく夫婦に見えているのかもしれない。 血の繋がりがない私と理一の容姿は当然似ているとは言い難く、これまでも度々同じような勘違いをされたことはあった。そのたび否定するのも億劫で夫婦のふりをするときもあるけれど、そんな些末な演技をしたあとは決まって、私は己の愚かさを呪いたくなった。 「買い置きしときたいもんでもあるの?」 「日用品とか色々ね」 「まあそれは荷物持ちがいたほうがいいもんな」 「そうそう」 都心を少し外れた郊外にある大型スーパーの二階フロアには日用品が揃っている。あらかじめ家にストックしておきたいものをスマホのアプリに打ち込んできていた私は、大きなカートを押した理一を連れて店内を巡った。 詰め替え用の洗剤、歯磨き粉、トイレットペーパー、シンク掃除用ぬめり取り、次々カートの中に放り込んでゆく私の横で理一は「俺の髭剃り用のジェルがそろそろ死ぬ気がする」と視線を走らせた。 「理一は髭薄いのにね」 「薄くたって剃らないわけにはいかないだろ」 「顎髭でも生やしてみたら?」 「どうせ似合わないって笑われるからいい」 「笑わないよ、可愛いなって思う」 「可愛いのも意味わかんないだろ」 耽美な理一の容貌に髭なんてワイルドなものはきっと似合わないだろう。わかっていて揶揄う私に少しだけ眉を顰めた理一は、それでも怒ることもなくカートを押して、見つけた髭剃り用のジェルを手に取った。着色料で青く染まったジェルが透明のチューブの中に透けている。かき氷のブルーハワイみたいな色だ。
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