長月を巡る伽藍堂な追憶

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長月を巡る伽藍堂な追憶

長月の夜は妙に寂しさが染みる。 都会の空にぽっかりと浮かぶ黄色い月は酷く孤独に見える。他に瞬く星もなく寄り添う者もないその場所で、月は何を思うのだろう? この時期は毎年、上半期決算を控えた理一の帰りが遅くなる。 ひとりきりで囲む食卓を侘しく思いながら、冷めてもおいしく食べられる献立を考えている時間がこの世で一番嫌いかもしれない。深底の鍋の中でクツクツと煮えているハンバーグを見下ろしながら小さくため息をついた。 本当はあまり食欲がない。だけどこの夏も例の如く夏バテで体重を落としてしまった私を理一が心配するから、多少は無理にでも食べなければ。 煮えて柔らかくなっているハンバーグを菜箸で裏返しながらもう数分煮込む。立ち昇る香りはケチャップの甘酸っぱさとソースの芳醇さが絡み合い、とても美味しそうだ。 ああ見えて子供舌な理一はハンバーグが大好物だから、もしも一緒に食卓を囲めたら嬉しそうな顔をしてくれるだろうに。そんなことを徒然に考えながらため息をこぼした。 私はひとりきりの食事が苦手だ。 子供の頃に冷たい台所の床の上でこそこそと身を隠すようにひとりきりで食べた食パンの味を思い出してしまうから。それを知っている理一がいつも私に付き合うためになるべく早く帰宅してくれていることを、私も知っていた。 友達や同僚の人と一緒に飲みに行ったり、ひとりで映画を観に行ったり、何もせずにぼうっと街を歩いたりすることもせずに、理一は仕事が終われば大抵まっすぐにこの家に帰って来てくれる。 それが理一にとっては負担でしかないとわかっていた。なのに少しでも長く理一の顔を見ていたくて、何もかもを見て見ぬふりして、私は自分の弱さで雁字搦めに理一を縛っている。理一の優しさに甘えて漬け込んで、自分の醜悪さにはいつも目を瞑っている。
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