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母の姿を今でも夢に見る。
そんな時、私は決まって理一に縋った。
1LDKのこの部屋で、理一と私は寝室にシングルベッドをふたつ並べて眠っている。私がいつ母の夢を見ても大丈夫なように。どうして理一はあんなに優しいのだろう?私を打ち捨ててしまえばもっと楽に、自由に生きられるのに。
「…美味しい」
出来上がった煮込みハンバーグを口に運んだ。
我ながらいい出来に仕上がっている。舌の上でほろほろと解ける合い挽きの肉が喉の奥に飲み込まれてゆく。酷く機械的な食事。それを美味しいと脳は認識しているのに、どうにも心が受け入れられない。
静かな食卓からは温度が乖離しているようだ。
***
私と理一には、兄妹でなかった時期が存在する。
それは理一が高校を卒業した年から、私が大学を卒業するまでの六年間に及ぶ。当時の私たちの関係性にあえて名前を授けるとしたら、『恋人同士』と呼ぶ以外他にないだろう。
理一は高校生の頃まで、実家から東京まで片道二時間掛けて通学していた。けれど進学が決まった大学に通うには通学時間がさらに伸びる。あまりに移動時間が長いのも学業に差し障るだろう、という父の提案で、理一は大学入学を機に実家を出て東京でひとり暮らしをすることが決まっていた。
当時の私はまだ高校一年生だった。父と理一の間で交わされる会話に意見を挟むことなど出来るわけもなく、そしてその時の私が胸の内で叫んでいた主張は、あまりに自分本位で、到底口に出せるものではなかった。
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