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滑稽な神無月に苛まれる
夏の残酷な暑さがやや遠のく神無月。
吹く風がほんの少しばかりの柔らかさを携え始めるこの頃、街の賑わいもどこか穏やかに感じられる。木々の間に透ける太陽の日差しも、刃物のように鋭い夏のそれから比べれば僅かばかり丸くなったような気がした。
「悪い、待ったか?」
新宿西口駅の改札口で待ち合わせをしていた源と昼過ぎに落ち合った。どこもかしこも人のあふれる雑踏の中を縫うように歩きながら、伊勢丹百貨店の方角を目指した。
今日は菜々の誕生日プレゼントを買う予定だ。菜々の誕生日は明日十月九日で、毎年のことながら誰かにプレゼントを選ぶという作業が苦手な俺は、こうして源を頼ることが多い。
「毎年毎年恒例化してんな、ったく」
「悪いと思ってるよ」
「今夜の酒代はお前の奢りだからな」
「わかってるよ」
念押ししてくる源に肩を竦めるだけで返す。
逆に源は意外とプレゼント選びのセンスが良い。普段若い高校生を相手にしながら過ごしていることもあり、おじさんに片足を突っ込みかけているような俺と違って流行にも敏感だ。
「老けねえと思ってたけど最近さすがに多少老けたよな、理一も」
「それは喜ぶべきか?」
「でもまだ年相応には程遠いぜ」
「知ってるよ」
童顔というわけでもないらしいが、俺はあまり昔から年齢に見合った容姿の評価を得られない。若い頃は仕事でも舐められることが増えて鬱陶しいと思ったが、それなりに実年齢が上昇してくるとどうでも良くなった。年を重ねるにつれて、どんどん自分に頓着がなくなる気がしている。
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