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「理一は昔から美少年で通ってたもんな」
「源はダサい金髪だったな」
「あの頃はあれが最強だったんだよ」
学生時代の源は、両親たちの不和とその後の離婚を機に素行が荒れてゆくようになった。だが結局根が善人な源が不良になりきることは出来なかった。誰かを殴るたびに自分のほうが傷ついたような顔をして帰ってくる源の覚束ない愚痴に呆れながら付き合ったのも、今はもう懐かしい。
菜々に対する感情をくすぶらせたまま外面だけは優等生を装っていた俺に煙草を薦めてきたのも当時の荒んだ源だ。息抜きにちょうどいいんだ、なんて退屈そうに言った源に唆されるまま、たまには品行方正からはみ出してみるのも悪くないかとその誘いに乗った。
今思い出しても馬鹿馬鹿しい若気の至りだ。でもそんな小さな快楽に酔いしれなければ気が済まない程度には、俺たちの地元は窮屈で息苦しい田舎町で、煮詰まった小さな世界の循環に嫌気が差していた。
「最近の高校生はどんなもん?」
「なんかたまに宇宙人と喋ってんのかと思う時もあるけど、でも俺らの頃と変わんねえなと思うこともあんな」
「あとは俺らのほうが変わったんだろうな」
「それもあるんだろうな」
自分では意識していなくとも、流れに身を任せるままに変化する部分はどうしようもなくあるものだろう。変わろうなんて望まなくとも人は変わる。それは抗いようもない不可逆な真実だ。
「何買うかは大体決めてんの」
「菜々に似合うものならなんでもいい」
「溺愛してんのか興味ねえのかどっちなんだそれ」
「前者だよ」
それでも俺の中には、菜々に出会った瞬間から滑稽なほどに何も変わらないものが存在する。それはあの傷だらけの小さな女の子が、俺にとっては世界中の何よりも大切な存在だということだ。
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