卯月は甘ったるくて苦手

7/8
前へ
/127ページ
次へ
*** 結局お腹いっぱいでパンケーキを食べられなかったことがあまりに無念で、私たちは帰り道にあるコンビニでプリンを買った。 理一は焼きプリンで私は牛乳プリン。あとで半分こして分け合う。私と理一はなんでもかんでも半分ずつ持ち寄って、それを分け合う習慣があった。 昼過ぎに家を出てからカフェでのんびりと過ごしたおかげで、帰る頃には日が傾き始める時間帯だった。 夕暮れのオレンジ色が理一の白い首を染める。理一の肌は白いから、何色に染まっても綺麗だ。乳白色でも、オレンジ色でも、夜の黒の中に浮かび上がったとしても綺麗だ。 不意に眼鏡を掛けた横顔が振り返る。私を映す理一の眼差しはいつだって穏やかで優しい。そしてその奥に、昏い影と甘やかな慕情を滲ませている。どれもこれも私と半分に分け合ったものだ。 「夜ごはんどうする?腹減らないよな?」 「なんか簡単にお茶漬けとかで済まそうか?鮭あるよ」 「お、いいな、さすが菜々」 「でしょう?」 理一の繊細そうな手が私の頭を撫でてくれる。 そこには妹に対する慈しみだけが存在している。それ以外の感情をその手が孕むことはない。もう永遠に。 「明日、雨降るんだって」 「そうなの?じゃあ桜散るかもしんないな」 「今日見に来ておいて良かったよね、意外と公園は穴場スポットだし、あのカフェはのんびりしてて雰囲気が良いし」 「またあっこ行こうよ、パンケーキのリベンジに。俺も結構気に入った」 「そうだと思ってた」 あの時、理一の目があのお店をひと目で気に入ったと直感した私の勘は正しかったらしい。私と理一が兄妹になってもう二十年以上が経つ。四半世紀近く培ってきた兄妹の絆は伊達じゃない。
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1185人が本棚に入れています
本棚に追加