紅葉の龍離譚

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 周りからの視線が生暖かいものになる。 「道成、火が苦手なんだから無理すんなよ」  視線に耐えきれずに、しぶしぶマッチをクラスメイトに渡さざるを得なかった。 「道成君、毎回火を付けようとしてはできないよね」  科学の授業が終わった後、実験室から教室に戻る途中でクラスメイトが呟いた。 「そう言ってやるなよ可哀そうだろ。本人なりに克服しようとしてるんだから」 「逆効果にしかならないから、フォローはいいよ。」  またもや火を付けられない自分の情けなさに涙しそうになる。 「大丈夫。苦手なものでもいつか克服できるって」 「……ありがとう」  気を取り直しつつ次の授業に臨む。教科は何か確認しようとして、それが別ベクトルで苦手な歴史であることに気付いた。 「歴史かぁ……」  教科そのものは得意でも不得意でもないが、担当の教師の厳つい雰囲気が苦手だった。  扉が開き、教師が入ってくる。  それだけで教室中の空気が自然と引き締まった。心臓に走る緊張感に耐えながらも、大人しく授業を受ける。  最初の十五分までは何も問題はなかった。そこまではただの日常の一風景だった。  しかし異変は突如として発生した。
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