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「……幽霊屋敷だね」
この湿った風は家の吐息のようで、麦野は口元をハンカチで覆った。あんなに沢山の霊が住宅街の一角に押し込められているとは……何なの、この家。
鞄の中から着信音が鳴る。
「――もしもし、麦野です。えっ、専務?」
「どこに居るのかね」
風見がスマホを取り上げて「■■駅から歩いて少しの民家。何の用?」と答えた。
音もなく外車が横付けされる。助手席のウィンドウが下がり、専務がスマホを耳から離した。
「道が狭くて難儀した」
「ンなデカい車で入って来る場所じゃねーんだよ」
「事の詳細は、麦野が青ヶ幾参与に提出した報告書で把握している。社員に寄り添う姿勢は素晴らしい。君は人事にも適性がありそうだ。麦野はこの車に乗ってアジロへ一緒に帰りなさい。風見は引き続き謹慎を続けるように」
「謹慎じゃねェって」
専務は「冗談だ」と頬を緩めた。
「事情が変わった。貫木ツバサさんには、別の手が差し伸べられる」
「へっ」
「……そーいうこと」
「そういうことだ」
二人して勝手に納得してしまい、麦野は蚊帳の外だ。
「事務局は手を引く」
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