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「部長、土曜日ですけど13時頃って言われてましたよね? もし大丈夫だったら、朝10時くらいからでもいいですか?」
「朝10時? 俺はそれでもいいけど。友梨子は朝からでも大丈夫なのか?」
「はい。早く伝えたくて……」
途端に部長の表情がとても嬉しそうな顔になる。
その顔を見て、部長の望んでいる答えを伝えられないことが本当に申し訳なくて、胸が締めつけられるように痛くなった。部長は私の話を聞いたら、きっと、いや絶対にショックを受けるはずだ。
それがわかるだけに本当に辛い。
たった一度だけだったとしても、自分の知り合いのショウと私が関係を持っていた事実だけでなく、しかも初めて会った数時間後に一夜を共にしていたのだから。
「友梨子、じゃあ10時頃迎えにいくよ。朝から友梨子と会えるなんて嬉しいな」
「では10時によろしくお願いします。私はこれから今日の翻訳をしますね」
私は精一杯笑顔を向けると、すぐに資料を手に取り、翻訳業務を始めた。
バタン──とドアが閉まり、部長が部屋から出ていったところで、両手で胸を押さえながら大きく深呼吸をする。部長の気持ちには応えられないのに、好きな気持ちが溢れて仕方がない。ひとりになったことで安心したのか、ぽろりと涙がこぼれてきた。慌てて指で涙を拭う。
部長の顔を見るだけで嬉しくて、笑顔を向けられるだけで幸せな気持ちに包まれて、自分でも気づかないうちにこんなにも部長のことを好きになっていたなんて……。
今さら気づいたって遅いけど、もうどうしようもないことだ。部長とは付き合うことはできないのだから。
今日は火曜日だ。
部長とこうして会話できるのもあと5日しかない。
私は土曜日まで部長が何も怪しまないようにと、最後の日までは笑顔でいようと心に決めた。
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