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甘い夜
照明が落とされた広いホテルのベッドの上で、鍛えられ引き締まった身体に組み敷かれた私は、その視線を逸らすことができず、ただただその男性を見つめ返していた。カーテン越しに零れ落ちる淡い光が、色気を纏った男性をほのかに照らす。
「君の名前は?」
長い睫毛と吸い込まれてしまいそうな神秘的なターコイズブルーの瞳。
緩くパーマのかかった茶色の髪と端正な顔立ちが目の前の男性の妖艶さをさらに増している。
「なあ、名前だけでも教えてくれないか? その方が何もかも忘れて楽しめるだろ?」
今夜限りの、たった一度の関係。
だから名前なんて必要ないはずなのに──。
甘い声で囁いた男性が、ふっと口元を緩めて柔らかい笑顔を見せた。
その笑顔にドクン──と心臓が飛び跳ねる。
これはこの男性に対してなのか、つい数時間前に知り合った男性とこんなことになってしまったからなのか、それはわからない。だけど私は動揺を悟られないように、覚悟を決めて小さく口を開いた。
「り、リリ……」
知らない男性に本当の名前を言うのも躊躇われ、とっさについた小さな嘘。
その瞬間、ターコイズブルーの瞳の奥がほんの少しだけ揺れた気がした。
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