28578人が本棚に入れています
本棚に追加
/299ページ
部長は翌日も、その翌日も私に何か言うわけでもなく、普通に仕事を依頼するだけだった。何も言わないのは、部長があの発言を後悔しているからだと自分なりに理解はしているものの、どういうわけか毎日部長のことが気になってしまう。
そんな中、部長が言っていた通り、拓海はあのバーで会った3日後、私に連絡をしてきた。
最初、昼間に知らない携帯番号からの着信が入っていて無視していたのだけれど、会社から帰ってきても何度も着信があるので、何か重要な電話なのかと思って出てみると、なんと相手は拓海だった。
「もしもし……」
「あの、すみません、こちらは森下友梨子さんの携帯でしょうか?」
きちんとした男性の声でどこか営業っぽい感じはするけれど、私の名前を知っているということはやっぱり何かの連絡だったのかと思い、相手が誰なのか恐る恐る答える。
「は、はい、そうですけど。あの、そちらは……?」
「よかった。合ってたんだ。なかなか出てくれないから携帯の番号変えたのかと思ってたよ。俺だよ、友梨子。この間は久しぶりに会えて嬉しかったよ」
急にくだけた感じになり、あのバーで会ったときと同じような馴れ馴れしく明るいテンションの声がスマホの向こうから声が聞こえてくる。
「ど、どうして……」
「この間、全然話せなかっただろ? だから友梨子と話したいなと思って」
「私は話すことはありません」
今さら何の話をするっていうんだろう。
こんな風に普通に連絡ができるなんて信じられない。
「なんでそんな冷たいんだよ。昔は俺たち付き合ってたじゃん。友梨子だって俺のことあんなに好き……」
「付き合ってたって……。昔のことです。もう別れてますよね」
昔の話なんて聞きたくないし思い出したくもない。
私は拓海の話を遮るように言い返した。
「いや、来週末にさ、また接待で東京に行くんだよ。だから会わないか?」
「どうして岩佐さんと会わないといけないんですか? 私にはあなたに会う理由はありません。失礼します」
電話を切ろうとしたとき、スマホの向こうから大きな声が聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!