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「桐田さん、ジュニアってなかなか紳士ですね」
まだ笑いが止まらない美鈴ちゃんが口元を押さえながら桐田さんを見ると、桐田さんも、「そうね。行動は早いけど意外とがっついてないところはかなり好印象ね」と、笑いながらうんうんと頷いている。
私は何も言うことができず、テーブルの上に置いてあった急須を手に取ると、みんなのコップにお茶を注ぎ始めた。
「あー、笑った。久しぶりに大笑いしたわ」
「私もです。先輩だけど友梨子さんが可愛すぎて、ジュニアの気持ちがよくわかります」
「みっ、美鈴ちゃんが、“あれ” なんて言うから……。もう恥ずかしい……」
再び両手で顔を覆っていると、「森下さん」と桐田さんの私を呼ぶ声が聞こえてきた。
覆っていた手を顔から外して視線を向ける。
「あのね、ひとつ提案があるんだけど」
さっきまで大笑いしていた桐田さんの表情が真剣なものへと変化していて、私は「はい」と返事をしながら姿勢を正した。
「今が森下さんが変われる絶好のタイミングというか、いいチャンスだと思うの」
「タイミング? チャンス? ……ですか?」
話の内容の意味がわからず、首を横に傾けながら桐田さんの顔をじっと見つめてしまう。何が絶好のタイミングなんだろうか。
「そう。森下さんが本来の姿に戻るタイミングのこと。今だったらそのウィッグを脱いで、きちんとメイクもして会社に来ても、もっともらしい理由が成り立つわ」
「桐田さん、それはどういうことですか?」
美鈴ちゃんも疑問に思ったのか、私よりも早く桐田さんに質問をしてくれた。
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