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金曜日、部長が聖美に言っていた言葉の中で、2つだけ部長が絶対に知らないことを当然のように口にしていた。
“お前と会った日、友梨子は何も言わずひとりで耐えながら身体を震わせて泣いてたよ。そんな友梨子の気持ちをお前は考えたことがあるのか?”
お前と会った日──。
部長はどうして私が聖美と会った日を知っていたのだろう。私は聖美に会った日のことを部長には一言も話していない。
それともうひとつ──。
あの日私が泣いていたことなんて絶対に知らないはずだ。だって私が泣いたのは、ショウと一緒にいたあのホテルの部屋の中だったからだ。ショウと過ごした日のことを私は誰にも言っていない。あの日聖美に会って泣いていたのを知っているのはショウだけなのに、どうして部長がそのことを知っているのだろう。
部長とショウって……。
しっ、知り合いってこと……?
うっ、うそでしょ……。
急に心拍数があがり、心臓がバクバクし始めた。
2人が何も関係がないことを祈りたいけれど、今までのことを思い返すとそれしか考えられない。
おそらく部長はショウから私のことを聞いていたのだ。
ショウから聞いた内容と、私がショウの話をしたことで、ショウが会った女性が私だと気づいたのだ。
だから、私があの日聖美に会ったことを知っていたし、泣いていたことも知っていた。
部長とショウが知り合いだったとは──。
部長はどうしてショウと知り合いだということを教えてくれなかったのだろう。知り合いだとわかっていたら、一緒に食事にもいかなかったし軽井沢にもいかなかった。
それに──。
こんなに好きになることもなかった。
涙がこぼれ、胸元をぎゅっと押さえる。
胸が痛くて痛くてたまらない。
土曜日にきちんと部長に自分の気持ちを伝えたかったけれど、もう無理かもしれない。
だって私はあの日、部長と知り合いのショウと一夜を共にしてしまったのだから──。
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