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昨日あれほど感動した自分が、何だか馬鹿みたいだ。黙り込んでいると、城が怪訝そうな顔をした。
「立花さん? どうかしました?」
「ああ、いえ」
はっとした優真は、あわてて話題を変えた。
「ところで城さんて、徹司さんのことを兄貴って呼ぶんですね」
他の舎弟は全員、氷室を社長と呼ぶのだ。兄貴呼びするのは、城だけである。すると城は、恥ずかしそうな顔をした。
「あー、本当は、ダメなんすけどねえ。俺、十七の時に兄貴に拾ってもらって以来世話になってきたから、癖が抜けないんすよ」
「そうだったんですね」
「ハイ。そっから十年、ずいぶん可愛がってもらいましたよ」
城は、懐かしそうな眼差しをした。
「そうそう、一番恩に着てるのは、あれっすね。俺を庇って、エンコを詰めてくれたこと」
氷室の欠けた指を思い出した優真は、はっとした。
「城さんのため、だったんですか?」
「うん、元々は俺の不始末だったんすけど。でも兄貴、下のもんの管理は自分の責任だって。あん時俺、一生兄貴に付いて行くって決めましたね」
城は、にっこり笑った。
「あ、すんません。俺の話を長々としちゃって。風呂の支度でも手伝います? 兄貴、まだしばらく仕事ですし」
「……いえ、大丈夫です」
迷ったが、優真は断った。あの女店主の深刻な表情が、気になっていたのだ。まさかとは思うが、月城組に脅されてでもいるのか。それを確かめたかった。
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