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都内の下町の一角にある『わたあめ通り商店街』は、いつも多くの家族連れでにぎわっている。日曜の午後ともなれば、なおさらだ。
そんな中、周囲の和やかなムードとは対照的に、険しい表情で歩く一人の青年がいた。立花優真、二十四歳である。
(今日こそ、決着をつけてやる)
店主らの呼び込みも、魅惑的な惣菜の匂いも無視して、優真はひたすらアーケード内を突き進んだ。やがて、とある喫茶店の前で立ち止まる。
(『ランコントル』……、ここだ)
優真は、迷わず足を踏み入れた。カランカランという軽やかな音と共に、いらっしゃい、という声が上がる。優真は、きょろきょろと店内を見回した。
(――いた!)
目指す相手を発見し、優真の胸は高鳴った。
優真は、ここで一人の男と待ち合わせをしていたのだ。その特徴は、年齢四十代前半、黒スーツ、煙草である。奥の席で一人、コーヒーをすすっている男は、その特徴を全て備えていた。目印代わりの、青いブックカバーの本も、ちゃんと手にしている。
(間違いない)
優真は、つかつかと男の元へ歩み寄ると、勢いよく頭を下げた。
「ヒロシさんですね? 騒音解決の件、お世話になります!」
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