第三章 信念

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 東郷組グループとの一悶着を経たその翌朝、優真は出勤するなり、課長から呼び出された。彼は何やら、満面の笑みを浮かべている。 「立花君、大手柄だね」 「はい?」  何のことかわからず、優真はきょとんとした。すると課長は、じれったそうに言った。 「ほら、パチンコ店に通ってるって通報があった件。何とあの受給者、自ら辞退するって言ってきてさ。しかも、これまで受けた保護費、全額返還するって」 氷室のしたことだ、とピンときた。まさか、そこまでしてくれたなんて。だがそれが、なぜ優真の手柄になっているのだろう。 「まるで別人みたいに殊勝な態度だったから、驚いたよ。その後、匿名の通報があったんだ。立花君、パチンコ店の前で、彼を諭したんだって?」 「いえ、別に諭したというほどでは」 注意したのは確かだが、辞退に持ち込めたのは氷室のおかげだ。優真が謙遜していると思ったのか、課長はこんなことまで言い出した。 「いやいや、これは上にも是非報告するよ!不正受給の、素晴らしい打ち切り例としてね。本当にありがとう」  コスト削減が求められている今、前例ができたことは喜ばしいのだろう。課長は上機嫌だ。 「その受給者、東郷組とかいう暴力団と関わってたらしいね。これを機に、そういう連中は一掃しよう。他の暴力団も、一律毅然と対処! どうせ皆、同類なんだからさ」  課長は張り切っているが、優真は内心複雑な思いだった。 城の話を聞く限り、東郷組と月城組では、体質はまるで違う。何より氷室は、優真に協力して、不正受給の打ち切りに一役買ってくれたではないか。 (ひとくくりにしないで欲しい……)
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