第三章 信念

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 城が出て行くと、優真はこっそり部屋を抜け出した。エレベーターだと舎弟らに見つかりそうなので、非常階段を使う。優真は、抜き足差し足階段を降り、一階の事務所へと向かった。 (万一彼女が危害を加えられたら、助けなければ)  優真は、そう決意していた。何の面識も無い相手だが、『わたあめ通り商店街』の一人である。上京したての頃、あの商店街の人々のおかげで、どれほど癒やされたことか。いくら氷室が相手でも、ひるむ気は無かった。 (彼がカタギの女性に何かするとは、思いたくないけど……)  一瞬脳裏に、課長の『どうせ皆、同類』という言葉がよみがえり、優真はぶんぶんと首を振った。事務所に続くドアに、そっと耳を押し当てる。だが扉がぶ厚いせいか、全く中の声は聞こえて来なかった。  優真は、思い切ってドアを押してみた。すると幸いにも、鍵は開いていた。細心の注意を払いながら、少しだけ隙間を作り、のぞいてみる。  すると室内には、確かに女店主の姿があった。応接セットに腰かけ、氷室と一対一で向かい合っている。その周りには、強面の男たちが控えていた。  優真は、慎重に耳をそばだてた。すると、氷室の鋭い声が響き渡った。 「そりゃ見過ごせませんな」 (彼女を脅す気か……?)  カッとなった優真は、思わず部屋に入ろうとした。だがその時、女店主は突如笑顔を浮かべた。 「わかっていただけました? ありがとうございます。月城組さんのことは、我々商店街一同、昔から本当に頼りにさせていただいてるんです。ですから、代表としてお願いしに参りました」
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