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氷室がいたのは、和室だった。一人、座卓の前に座っている。珍しく和服姿だ。こんな状況にもかかわらず、優真は惚れ惚れと見とれた。
「徹司さん、もう大丈夫なんですか?」
「ああ」
氷室はあっさり頷くと、座るよううながした。向かい合って顔をよく見れば、彼は思ったより元気そうだった。改めて、ほっとする。
「お前こそ、火傷の具合はどうだ?」
「僕は、大したことないですよ」
「本当か? 見せてみろ」
優真は氷室の隣へ移動すると、スラックスの裾をめくって、火傷した箇所を見せた。綺麗に完治したのを確認すると、氷室は安堵したようにため息をついた。
「よかった。ちょっとでも痕が残ったらたたじゃおかねえって、医者を脅しといたからな。ったく、うちの馬鹿どものせいで……」
氷室はぶつぶつ言っているが、優真はおかしくなった。そうは言いながらも、氷室は逮捕された元組員らにこっそり差し入れしたり、刑が軽くなるよう警察に掛け合っているそうなのだ。向坂からの情報である。
「女の子じゃあるまいし、残ったってどうってことありませんよ」
だが氷室は、大真面目にかぶりをふった。
「いいわけねえだろ。せっかくの、綺麗な肌だってのに……」
愛おしげに脚を撫でられ、優真はドキリとした。肌に触れられるのは、久々だ。赤くなる優真を見て、氷室は怪訝そうな顔をした。
「……どうした?」
「いえ、ええと……。素敵なお部屋だなって思ってたんです。徹司さん、こんなマンションも持ってらしたんですね」
取りあえず誤魔化そうと、話題を変えてみる。すると氷室は、呆れたような顔をした。
「俺の持ちもんなわけがあるか。寝ぼけたことをぬかすな」
「へ? じゃあ誰のです?」
氷室は、大きなため息をついた。
「優真、お前のもんだ」
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