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「は!? 僕の?」
優真は、あんぐりと口を開けた。
「買ってやるって言っただろうが。おい、本当に大丈夫か? ハジかれたショックで、記憶が飛んだか?」
「いや、それは覚えてますけど……、でも!」
優真は、氷室をキッと見すえた。
「徹司さん、結婚するんでしょう? 僕にマンションなんて買っていいんですか。し、し、新婚早々、愛人囲うとか……。今度は桐生会と抗争、なんてことになったら……」
「はあ?」
氷室が眉をひそめる。
「結婚だあ? どっからそんな話が出て来んだ。優真、お前何を吹き込まれた?」
「だって、桐生会の幹部の娘さんと結婚するんじゃ? それが連合の条件だって、城さんから聞きましたけど……」
これまで城から聞かされた話を洗いざらいぶちまけると、氷室はため息をついた。
「優真。そりゃ全部でたらめだ。確かに、桐生会のとこの娘は俺を好いてるらしい。だからそんな話もチラッと浮上した。だが俺は、きっぱり断ったさ。向こうも半分冗談だったらしくて、アハハで終わりよ」
「そう……だったんですね……?」
「ああ。第一今時そんなことで、連合を組む組まないは決まらねえ」
気が抜けるのを感じた。そんな優真を見て、氷室はクスクス笑った。
「何を早とちりしてんだ、馬鹿な奴だな……。カチコミの日の朝、早く帰って来いって言ったろ? 実は、このマンションをお前に見せるつもりだった」
「そうだったんですか」
優真は、目を見張った。
「場所がいいのが気に入ってな。俺の事務所とお前の職場の中間にあるし、『わたあめ通り商店街』にも近い。だが一点、気になる所があった」
「何です?」
完璧と言ってよいマンションだが、と優真は首をひねった。
「最初は、洋室ばかりだったんだ。それで、この一室を和室に改装した。どうせお前も怪我の治療中だから、その期間を利用しようと思ってな。ようやく完成したから、今日連れて来た、というわけだ」
体調回復後も、長らく氷室が部屋に戻らなかったのは、それにかかりきりだったせいか。いろいろな疑問が解消していく。
「素敵ですけど……。でもどうしてまた和室に?」
氷室は、けろりと答えた。
「お前のアパート、和室があるだろう。てっきり、そういう趣味かと思ってよ」
(そこまで考えてくれてたんだ……)
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