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「最初に発案したのは誰?」 「誰って言うか――」稔がぐるりと三人を見回す。「みんな大学がバラバラで、卒業旅行には行けなかったから、じゃあ夏に集まって行こうってことになって。何となく、誰が言い出したとかはないですかね。強いて言うなら、俺と真里菜がいろいろ段取りしたかな」 「このルートは、誰が考えたの?」 「俺です。俺が考えて、それから真里菜と相談してコースを決めました」 「そうなんです。俺はこういうの、疎くて。任せきりで」  尚也が目を伏す。 「亜衣さんが行きたいって言った場所はない?」 「あいつは何も言いませんでした」  稔が答える。どうしてか、関係性の中に主体性がないように思えてならなかった。ただなんとなく四人集まり、なんとなく一緒に京都にやってきた。そこには何か、目的意識があったのか。否、今時の友人付き合いとはそんなものなのか。  唐突にドアがノックされ、全員が顔を上げた。はい、と久美子が答えると、ドアがわずかに開いて首だけ突き出してきたのは、むっつり顔の赤坂美穂だった。 「久美子、刑事課長が呼んでる」  やっとか。先ほどの件に違いない。「ごめんなさいね」久美子は三人にそっと声をかけてから、廊下に出た。 「さっきの件?」 「そう。あの被害者の山岡満って男、やっぱり、本部の組織犯罪対策三課がマークしてたって。でも、ウチに設置されてる薬対本部とは別口だったみたい」 「春日成二はそれを知ってて、ガイシャに張り付いてたってこと?」 「それは知らんけど。本人に聞いてみるしかないんじゃない?」 「そうよね。でも、その春日は戻ってないのよね?」  美穂が呆れたように肩をすくめる。あそこで、春日は何をしていたのだ。どうして春日は、山岡満に張り付いていたのだ。 「社!」と廊下に響いた怒声で、久美子は我に返った。顔を上げると、刑事部屋から上半身だけ突き出して、久保田刑事課長がこちらを睨んでいた。「はい!」と久美子は返し、速やかに刑事部屋に駆け入る。薄暗い刑事部屋だったが、スポットライトを当てたように課長席の周りだけ明るく、そこに三人の男が立っていた。一人は久美子の直属の上司である、強行犯係の細川係長。一人は当直の組織犯罪対策係主任、松井弘正。残りの一人は、交通課交通捜査係の高橋英道係長だった。正に寝首をかかれたという不機嫌な表情の久保田は、自分のデスクに荒々しく腰を下ろした。 「社、説明しろ」  何をですか、と問おうとしたところ、「私から説明します」と背後から割って入ってきたのは、久美子の背中にぴったりくっついてきていた美穂だった。 「二十三時ごろ、交通人身事故発生の一一〇入電がありました。同報の一分後、当直だった私と、別件で残っていた社巡査長が指名されて臨場しました。現場にはすでに救急が到着し、被害者山岡満はすでに救急車の車内にいました。現場の様子から、交通事件ではないことはすぐに解りました。そこに、刑事課の春日巡査部長が乱入し、救急車内で被害者の身検をし、山岡のズボンのポケットから覚せい剤を発見したとのことです。以上です」  美穂も納得がいっていないのだ、と思った。具体的に何が、というわけではないが、真っ先に臨場した警察官でありながら、春日成二の横暴のとばっちりを受けた者としてのやり場のない怒りのようなオーラを感じる。おっとりした外見とは裏腹に、かなり頑固な負けず嫌いなのだった。
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