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「山岡満、組関係だったんですか」
久美子は松井に尋ねてみた。松井は口を一文字に結んで、首を横に振った。
「違う。やから、覚せい剤の入手ルートが解らん」
「そやから――!」久保田が静かな怒りを発しながら、久美子を睨みつける。
「あの春日は、何で山岡がヤクを持ってるって知っとったんや?」
「解りません」私が知るわけない。
憮然とした久美子の態度が気に入らなかったのか、久保田は一つ舌打ちを漏らす。
「山岡満は組対三課のチェックリストには載ってたが、所持の可能性は下位のC級や。誰も注視していなかったそれを、春日は掻っ攫っていきよったんや」
「しかし事実、クスリを所持していたんです。C級の、マークされていなかった者が所持していたんですから、春日のしたことは責められることではないと思いますが」
「事態はそう単純じゃない」松井が横から割って入る。
「C級ということは、要は組関係との付き合いが遠い、弱いということや。そういう連中が持ってたということは、組関係のルートを警察が見落としているか、それとも未解明のルートで、シャブが市内に流出しているってことやろう」
春日はつまり、組対三課が注視していなかった――つまり、見逃していた売人をマークしていたということか。しかし、そんなことは知ったことではない。本部がマークしていなかった雑魚を所轄の捜査員が検挙した、そんな事例は山ほどあるだろうに。
否、そうではないのか。久美子は久保田、細川、松井の渋面を見比べる。そうか、組対三課がマークしていなかったのではなく、逆か。組対三課は注視していないふりをして極秘裏にマークしており、あえて泳がしていた雑魚を、春日が挙げてしまったのか。それなら、この内密且つ非公式な、どこにも結論の持っていきようがないという気だるい雰囲気の緊急ミーティングにも納得がいく。しかし、やはり久美子としては、そんなことは知ったことではない、というところだった。
「とにかく、帳場が立つとしたら明日の朝一。社、それまでに春日を見つけろ」
どうして私が、という一言は飲み込んでおく。
「府警本部から、誰か出張ってくるんですか?」
「それは刑事部で調整中。一課当直の服部主任が一応臨場しているが、本部付の帳場になるかは微妙な感じやな。いずれにしても、春日のアホが居らんことには話にならんやろうが」
それはそうだが、しかし私は春日のベビーシッターではない。春日が何かやらかしてくれるたびに久保田は久美子を呼び、春日の暴走によっていかに刑事課が迷惑しているかを懇々と語り、最後には「春日を探せ」の一言につながっていくのは毎度のパターンだったが、確かに久保田の立場に共感できる部分はありつつも、しかし同調は最後までできないのだった。
轢き逃げ事件の捜査だと思って臨場したら傷害事件だった、そういう肩透かしを食らったような高橋ら交通捜査の虚脱感。自分は春日の暴走とは無関係だと言わんばかりの、細川毅のことなかれ主義な仏頂面。本部の顔に泥を塗った部下の尻拭いをどうして俺がしなければならないのかという、久保田義治の般若のような表情。三様の思惑が交錯しあっている中に、自分の居場所を見つけられないまま突っ立っていた久美子の懐で、携帯電話が鳴った。
「すみません」久美子は携帯電話を取り出してその場を離れる。
「はい、もしもし」
《社さんか? 駅前PBの横山やけど。さっきの行方不明の件やけど、今それらしい女の子が見つかったって連絡があった》
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