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昼食は豪華だったが、それは南部流のご馳走。口に合うかどうかはわからなかったが、受け入れられたらしいことは料理の嵩が減っていくことでわかった。
王家の使者ともなれば仕事で全土を巡っており、出されたものを食するマナーを心得ているだけかもしれないが。
ライムンドの隣に座っている姫はといえば、こちらは食が進んでいない。介助役の女性が小皿に盛り、耳許でなにかを囁きながら渡している様子を見ながら、ライムンドは盃を空ける。
祝いの場ということで酒が出されているが、昼間に出すもの。度数は低い。
それでも、慣れぬ空気に酔っていたのかもしれない。ライムンドは苛立ってきた。
嫁だというのならば、顔ぐらい見せて然るべきだし、会話ぐらいさせてほしい。
通訳よろしく傍に張り付いていたら、なにも出来ないじゃないか。いや、なにかするわけでもないが。
鬱憤はうっかり口をついて出てしまったらしく、使者の中でも一番偉そうな男がまくし立てた。
「なんと無礼な、こちらにおわすのは偉大なるムースンの――」
「遥か昔、海底に沈んだ国のことなど、どうでもいい。俺が知りたいのは、ここにいる女のことだ」
言い放つと、隣に座っていた女の腕を掴んで立ち上がる。驚くほど細く、枯れ枝のようだ。折ってしまいそうでヒヤリとしたが、注目を浴びているいま、手を放すわけにもいかない。
父と目が合うと、ニヤリと笑って盃を掲げた。
「よいではないか。夫婦となるべく引き合わされた二人だ。年配者として、野暮なことは言うもんじゃないだろう、なあ使者殿よ」
長年、海の荒くれ者を率いてきた男の弁は、茶化したような言葉とは裏腹に威圧的だ。都の文官らしき使者は、気圧されたように黙りこむ。その機を逃さずライムンドは、女の腕を引いて外へ向かう。
抵抗するかと思われた姫は、予想に反し、引かれるままに足を動かし、ライムンドはひとまず丘へ向かうことにした。
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