南の島と雪寄せの巫女姫

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 島の中心にある山。その中腹にある開けた場所は、島全体を一望できる絶景スポット。  海風が火照った頬を()ましていくにつれ、頭も冷えてきた。  やんごとないお姫さまには、乱暴な振る舞いだったかもしれない。普段は、威勢のいい島の女たちを相手にしているぶん、高貴な女性の扱いがわからない。 「悪かったな、連れ出して。あんただって王命で来たんだろうし、この結婚に不本意なのはお互いさまだ。腹を割って話そうじゃないか。言いたいことがあるなら、自分で言えよ」 「よろしいのでしょうか」  初めて発した声は、澄んだ鈴の音のようだった。  キンキンわめく女たちとは異なる声色にライムンドの身体は震え、ベールを外した彼女の美しさに目を見張り、続いて発した言葉に衝撃を受けた。 「もう、疲れたー! あれもダメこれもダメって、そんな取り繕ったって意味ないと思いません? 貴女は口を開かなければそれなりに見えるから婚家では黙っていなさいって言うんだけど、もう息が詰まるったらないわよ。嘘なんてバレるに決まってるじゃない。ほんと考えの底が浅いわ。ねえ?」  言葉尻で問われたが、ライムンドは肯定も否定もできない。  見目麗しい姫君が島の女顔負けの口調でペチャクチャと喋っている図は、なんというか騙し絵のようだ。  沈黙を同意とみなしたのか、姫は腕組みをして、うんうんと頷く。 「だけど、あのおじさん。ほら、一番偉そうにしてたひと。あの方は、わたしをなんとか押しつけて帰りたがっているんだけど、さっきのは痛快だったわね。(おさ)さま、カッコよかったわ」 「……生憎だが、あの男は『惚れた女は一人だけだ』と公言してはばからない。亡くなった母以外は寄せ付けない奴だぞ」 「ますます素敵。奥さまが羨ましい」  いや、なんの話をしているのか。  はたと我に返り、ライムンドは姫を眺める。  風に吹かれる銀糸の髪。色白の肌に映える澄んだ碧眼。ライムンドの胸元までしかない背丈。手足は細く、華奢な体格。  しかし、顔を上げて話すさまは生気に満ち溢れている。
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