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「――っ!」
はっとして顔を上げた時、つみきは鏡台の前に座っていた。
――な、何?何がどうしてどうなったの?
頭がガンガンする。直前の記憶ははっきりしていた。自分と疾風が会社のオフィスにいたこと。帰ろうとしたところで疾風に心配されて声をかけられていたこと。そして、足元にあいた巨大な穴に、二人揃って吸い込まれてしまったこと。
さらに闇の中で、妙な女性のアナウンスのようなものを聞いたこと――。
――ど、どういうこと?弊社のゲームつってたよね?てことは、あれは破滅のセシリアを作ったゲーム会社さんの仕業ってこと?そんなんある?
もし。よくある異世界転生系のアニメとかのように、トラックにぶつかって――とか階段から落ちて――みたいな出来事の結果此処にいるなら。つみきとて、今自分が見ているのは何かの夢だろうと疑ったに違いない。だが、さすがにオフィスの出来事は現実である。その現実で、誰がどう見ても非現実としか思えない不思議な出来事が起きてしまったわけだ。ファンタジーなどあり得ない、と言い切ることは既に難しかった。いや、自分が自覚していないだけで、今日の会社での出来事がまるごと夢でした、というオチはあるかもしれないが。
『これは非常に名誉なことです。何故なら、皆様が望む、ゲームの世界への異世界転移が可能となったのですから。これから西岡様を、私達が生み出した箱庭、破滅のセシリアの世界へとご招待致します。ご安心ください、ゲームを一度クリアすれば、西岡様はお連れ様といっしょに元の世界に帰ることができます』
あのアナウンスの言葉を反芻する。恐る恐る、つみきは顔を上げて鏡の中を見た。鏡であるからして、そこに映っているのは紛れもないつみきの顔であるはずである。いつもなら、丸顔で目が小さくて眼鏡、地味で冴えない二十八歳OLの顔があるはずだった。それなのに。
そこにいるのは、真っ赤な髪に緑色の瞳の美しい少女。
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