<4・突然に、主人公。>

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 序章の序章。まだ他のどのキャラともフラグが立っていない、ルートが確定していない状態だ。ただ、初期設定の段階でディアナはセシリアの婚約者になるであろうと噂されている貴族の青年に懸想しているため、セシリアにはかなり塩対応であったはず。メイトたちの態度がセシリアに冷たいのもそれを反映した形だろう。彼等彼女らにとって、セシリアはディアナの恋愛を邪魔しようとしている、元下層階級の薄汚い目の上のたんこぶ(しかも、実質養子になる前のセシリアの階級はメイド達のような労働階級より下ということになる)でしかない。嫉妬も相まって、そりゃ無視されるようなことがあっても仕方ないだろう。何も知らない疾風には気の毒な話だが。 「ということは、まだ私達はルート確定してないプロローグのシーンにいる、ということになると思います。ただ、ここで私とセシリア=神楽先輩がどのような接し方をするか、会話をするかで今後の状況が大きく変わってくることになりますが」 「なるほど、既にフラグ建築は始まってるわけだな」 「そうです。とにかく、今後のことを考えると少しでも私達二人の生存率の高いルートを選んでクリアしなくちゃいけません。幸い私が悪役令嬢で神楽先輩が主人公だから、ある程度フラグコントロールは簡単かと」 「なるほど」  ならなるべく早くクリアしたいな、と疾風は言う。 「俺も西岡さんも、元のセシリアとディアナを乗っ取ってしまっているわけだろう?彼等の人格を、俺達の人格で殺しちまってるってわけだ。いくらゲームのキャラクターとはいえ心ある存在、気の毒がすぎる。早く彼女たちに、この体を返してあげないとな」 「え……」  その言葉で、つみきはようやく理解した。確かに、この体を自分達が乗っ取ってるな、とは思っていた。でも、じゃあ元のセシリアとディアナの人格や心、魂がどうなったのかなんて考えたこともなかったのだ。自分達が彼女らの心を殺してしまってる、なんてことも。  夢小説やラノベでありがちな成り代わりというのは、つまりそういうことなのである。自分に都合の良い体を手に入れたのと引き換えに、本来あったはずの誰かを無理やり追い出しているのだ。気づいてなかった。それがどれほど恐ろしい事実であるのかに。  そして。 ――命がけのゲームをさせられてるのに。真っ先に気にするのは、そこなんだ。  やっぱりこの人は優しいんだな、と再確認するのである。  そんなこの人だから自分は好きになったんだよな、とも。
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