<1・オフィスレディの恋煩い>

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 ***  身分相応、という言葉がある。  高嶺の花に手を出せるのは、同じく高嶺の花と呼ばれるような人間だけ。相応に美人だったり、頭が良かったり、スポーツが得意だったり身分が高かったり――エトセトラ。その理屈で言うなら、神楽疾風は間違いなく超ド級の高嶺の花に違いなかった。  有名大学卒業。  元サッカー部の司令塔。高校時代は全国経験もアリ。  後輩達に記事チェックの仕事や電話対応のやり方を教えながら、自分はつみき達の倍近いデータを定時まででちゃちゃかこなすハイスペックぶり。  それでもって、イケメン。超絶イケメン、というか女顔の美少年キャラ(年齢的には少年と呼べる年ではないのだが、童顔なのでついついそう言いたくなるのである)。  トドメが誰に対しても優しく、面倒見がよく、老若男女問わず非常にウケがいいと聞く。将来はほぼ確実に管理職だろう。天は二物を与えないってどこの誰が言ったんだよと頭を抱えたくなるほどの完璧超人ぶりである。やや性格が天然っぽくてドジっ子なところもあるが、それはそれとして彼の魅力の一つでもあると思っている。 ――何でゲームの中じゃなくて、リアルにあんな人間いるんですかね。でもって、何でそんな絶対届かないような相手を好きになっちゃったんですかねー私は。  今日も今日とて私はため息をつきながら、一人でゲームに逃げる日々。  いや、ゲームをやるのが悪いなんてことはないのだが。現実の自分や、報われない恋を忘れるために没頭している自覚があるので、なんとも救われない話なのである。  初恋、というわけではない。流石に小学生から大学生までの間で、まったく人を好きになったことがないわけではないのだから。  でも、そんな言葉にすることもなく露と消えた片思い達と比べて――今の恋は、明らかに重さが違うのである。何度も何度も、仕事を教えて貰いながら想像してしまった。頭のやや斜め上から響く優しい声が、マウスを握る手が、画面をさす指が。全部、自分だけのものだったらどれほどいいだろうか、と。家の中で、デート先で、あるいはベッドの中だけで。恋人として、囁いて貰えたらどれほど夢見心地になれるかと。  自分は実際、仕事をしている時の彼しか知らないのに。
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