<6・迷わない者。>

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<6・迷わない者。>

 悲鳴というものは、本能的に人の身を竦ませるものである。ましてやそれが、命の危機に瀕した時のものであるならば。 「な、何っ!?」 「!!」 「ちょ、神楽先輩っ!?」  つみきが硬直から解けた時にはもう、疾風は動き出していた。部屋の窓を勢いよく開けて、外の様子を見る。そして“やべえ!”と一言叫ぶと。 「西岡さん、今はこの家の人間なんだよな?メイドたちに命じて、大きなシーツかなんか用意してもらってくれ!人が窓から落ちそうになってる!」 「ええええええ!?」 「急いで!俺は直接助けに行く!」  彼はそう言うやいなや、走りにくいミュールのような靴を脱ぎ捨てると、部屋の外に飛び出していった。判断と思い切りがちょっと早すぎるのではないか。反射的に追いかけそうにり、直後言われた内容を理解することに成功する。  慌ててつみきも、窓の外に身を乗り出して外を確認することに成功した。そして知る。この三階よりさらに上――六階の一つの窓から、メイド服の少女がぶら下がっていることに。窓枠を掴んで、必死にもがいているではないか。 「た、大変っ!」  つみき=ディアナの家のメイドだろう。確かにあれでは、落ちてしまうのも時間の問題であるように思える。つみきはわたわたと混乱しながらも部屋を出た。直後、動きにくい“お嬢様の靴”をつっかえて転んでしまう。急ぐために靴を脱いでいった疾風の選択は実に正しかったということらしい。 ――あああもう!何で西洋じゃ家の中で靴脱がないんだよおおお!!  文句を言っても仕方ない。こっちは普通の革靴でさえ早く歩けないというのに、西洋のお嬢様はなんでこんなヒールの高くてキラキラした硬い靴を平気で履きこなしていたんだろうか。訳がわからないと突っ込みながらもどうにか立ち上がりよろけつつも階下へ向かう。途中すれ違った執事に状況を伝えるのも忘れずに。 ――思い出した、これ、規定のイベントだ!  ふらつきながらも階段を駆け降りる中で思い出した。これは元々あったイベントの一つである、と。しかもディアナの好感度を大きく左右するイベントの一つではなかったか。  セシリアがディアナと話している途中で、外から悲鳴が聞こえてくる。  そして選択肢が出現。悲鳴を気にするか、無視するか。
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