<6・迷わない者。>

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 気にして窓の外を確認したあとでもさらに選択肢が出る。落ちそうになっているメイドを助けてほしいとディアナにお願いするか、やめるか。実は落下しかかっているメイドの少女はまだ新人であり、しかもかなり鈍臭いキャラなのである。はっきり言って、ディアナの印象は良くない。助けてあげてとお願いしても、ディアナを多少説得しないとディアナはメイドを助けようとせず見殺しにしてもいいという態度を取るのだ。  で、そこでセシリアがディアナに同調するか、どうしても助けて欲しいと再度懇願するかでまた分岐がある。――ノベルゲーだから仕方ないとはいえ、そんな悠長にぐだぐだ会話してたらその間に女のコは落ちるだろ、たツッコミたくなるのだが。 ――で、でも。ゲームの中には、セシリアが直接女の子を助けに行くコマンドなんて出てこないのに!  問題は。既にゲームでは選びようもなかった選択をさっさと疾風=セシリアが選んでしまったことでる。人頼みにせず、彼女自らメイド少女を助けようとした場合は何が起きるのか、なんてまったくつみきにも予想がつかない。 ――じ、人命は大事だけど!でも、何が起きるかわからない選択肢をさっさと選ばれるのはちょっと困る気も……いや、その判断の早さが神楽先輩のいいところではあるんだけど!  どうにかつみきが庭に出た直後、彼がメイド少女のいる部屋に到着したらしかった。きっと、窓掃除でもしている間に足を滑らせてしまったのだろう。悲鳴を上げて窓枠にしがみつく少女に対して、窓から身を乗り出した疾風が叫ぶ。 「君、しっかりしろ!今助けてやるからな!」 「えっ」 「この手に掴まれ、引っ張るぞ!」  メイド少女は、自分を助けに来たお嬢様の姿を見て困惑している。まさか、ディアナの客人(立場上はそうなっているはずだ)の華奢で可憐な伯爵家令嬢が真っ先に来てくれるだなんて思ってもみなかったのだろう。  疾風は少女の左手を掴み、引っ張り上げようとする。そのすぐ後に執事たちがシーツを持ってきて下で受け止める準備を始めた。 ――む、無茶だよ神楽先輩!  つみきは何も出来ず、ただただ見守るしかない。 ――そりゃ、その女の子まだ若いし軽いかもだけど!でも、セシリアは華奢だし、引っばりあげるなんて!  下手をしたら自分も一緒に落ちてしまいかねない。そもそも、向こうは六階の高さにいるのだ。人が落下して確実に死ぬ高さは確か五階くらいだったと記憶している。六階からメイドもろとも落ちたら、疾風だって無事で済むとは思えないというのに。  しかし。 「て、手を離してください。あ、貴女まで落ちてしまいます!」
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