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「俺のためを思うならさっさとそのから這い上がってくれ!君を見捨てた嫌な人間になんかなりたくないぞ!」
「で、でも」
「大丈夫、二人共ちゃんと助かるから!」
弱気になっている少女に対して、ずっと励ます言葉をかけ続けているようだ。表情はともかく、声はよく聞こえる。しかも、じりじりと引っ張り上げるのに成功しているようだ。
ああ、とつみきは思う。彼はこういう人だった、と。
――誰かを助けることを躊躇わない。困ってる人がいたら、後先も損得も考えずに助けに行っちゃう……。そうだよね。それが、貴方、だよね。
やがて、少女のお腹までが窓枠に乗った。あと一息。その体が力強く部屋の中に引っ張り込まれる。
「おおおおお!」
「よ、良かった!」
シーツを広げて待っていた執事たちから歓声が上がった。必要なくなったシーツをくるくると畳むと、それぞれ安堵の声を上げ無事を讃えている。同時に。
「ディアナ様、ありがとうございます!」
「えっ」
呆然としていたディアナに、執事の一人が声をかけた。
「いえ、エマのことをディアナ様が好いてらっしゃらなかったことは存じ上げておりましたから。助けを呼んでくださったことに、心から感謝いたします」
そこでやっと、状況を思い出した。そうだ、ディアナは自分。そしてその自分は、あのメイド少女を見殺しにしてもいいと思うくらいに嫌っていたはずである。だから、本来のルートではセシリアが自分を説得しにかかるのだ。
そして実際、セシリアがディアナを説得しきれなければ、あのメイドのエマという少女は落ちて命を失っていた。そういう話であったはずだ。
「それに、あの客人の……セシリア様を呼んで下さったのもディアナ様ですから。やはりディアナ様のおかげです。ありがとうございました」
「……私、何もしてないです」
疾風がそうであるように。つみきも暫し、己のキャラクターとしての演技を忘れていた。ただただ、思ったことがそのまま口に出ていた。
「感謝するならどうか……セシリアに、してあげてください、全ては彼女のお陰なのですから」
本当はずっと不安だった。この、ある意味現実よりずっと過酷な世界で、自分のような弱っちい人間がどうして生き残ることができるかと。でも。
――決められた選択肢を、貴方は何も知らずに壊した。その勇気で。
ひょっとしたら、という淡い期待も抱きつつあるのだ。
彼と一緒なら、きっと。この苛烈な運命も超えて行けるのではないか、と。
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