<6・迷わない者。>

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 ***  その後。  本気で怖かったのか、大泣きしているメイドの子を必死で慰める疾風と、彼女たちの手当をする(二人共それぞれ擦り傷だらけだったからだ)他のメイド、それを見てポカーンとしているつまきというなんともシュールな図が出来上がったのだった。  思った通りと言うべきか、メイドの少女は窓掃除をしていて足を滑らせたパターンで間違いなかったらしい。何度も何度も、疾風は彼女にお礼を言われていた。そして、仲間を救われたメイドたちの疾風=セシリアへの態度は一気に軟化することとなったのだった。 「……ディアナの家の……このうちにはお医者様もいるはずだから」  はあ、とため息をついてつみきは言う。 「今日は経過観察もかねて、今夜もう一晩泊まるってことでいいですよね?神楽先輩」 「俺は平気だって言ってるんだけどな。窓枠で腕を摺っただけなんだぜ?」 「右腕の皮がズル剥けになってたのに何言ってるんですか。擦過傷は馬鹿にならないんですよ、それこそ感染症だって有り得るんですからね!」  一応つみきも彼の腕を見せてもらった。包帯ががっつりぐるぐる巻の状態ではあるが、それだけに結構酷い傷だったのでは、というのが拭えない。女性の腕なのに、なんてことを手当したメイドがぼやいていたから、見た目は相応に酷かったのだろう。 「……私」  そして、つみきは廊下で、疾風と真正面から向かい合って告げるのだ。正直な気持ちを。 「メイドが窓から落ちそうになったのを気付いた時、真っ先に思ったんです。規定のイベントだって。これの対応次第で、セシリアのディアナの関係に最初の変化が生まれるので」 「さっきも聞いたぞ。俺が飛び出していくってのはゲームになかったから驚いたんだろ?そりゃ、相談なしに動いたのは悪かったけど、あそこでグズグズしてたらあの子は助からなかったかもしれないじゃないか」 「……いえ、それを責めてるんじゃないです。むしろ責めてるのは自分の方で」 「?」  なんのことがわからない。そんな顔で首を傾げる疾風。
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