<6・迷わない者。>

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「……私。メイドのあの子が生きても死んでもどうでもいいと思ってしまったんです。それよりも、この事件の結果で好感度が変わってルートが決まる……もし二人で生き残る可能性が高くなるとはっきりわかっていたら、きっと私は平気でエマを殺してました。だって、私にとってはここは現実世界じゃなくて……彼女たちはあくまでゲームのキャラクターにすぎないから」  自分達がいるのは、そういう場所だ。それは、直前まで話していた以上疾風だってわかりきっていたはずなのである。それなのに、彼は。 「私は彼女の命をゲームの駒としてしか見ていなかった。……それが、今。とても恐ろしい」  疾風は、違っていた。  ゲームの登場人物とわかっていながら、メイドの少女を助けることを選んだのだ。己が怪我をしてまで。 「彼女が助かったことを喜ぶより、これでより良いルートに行けるかどうかの方を気にしてしまったんです。例え私達にとってこの世界がゲームでも、彼ら彼女らには紛れもない現実なのに」 「……そこまでわかってるならいいじゃないか」  落ち込むつみきの肩を、疾風はぽん、と叩いた。 「君が、自分と俺の生存を優先させるのは当然だ。生き残るためにはある程度合理的に考えなくちゃいけないのは間違いないし、そう考えるなら俺の行動は後先考えなさすぎだったんだろうなって思うよ」 「神楽先輩……」 「でも、ごめん。これが俺だから。目の前で苦しんでる人を放置できるようになっちゃったら、それはもう俺じゃないから」  ごめん、と言いながらも一切後悔していない顔。なんとも勝手な人だなと思う。ようは、自分はこれからもきっと暴走するだろうけど、それを見越して自分に尻拭いをしてくれと言っているようなものなのだがら。  しかし。 「俺は出来れば俺達だけじゃなくて……誰も死なないルートを探したいよ。どうせクリアするなら、誰にとってもハッピーエンドがいい。現実は無理でも、ゲームならそれが出来るかもしれないだろ?」  そんなこの人だから、自分は彼を好きになったのだと知っている。 「……もう」  だからつみきも。  呆れたふりをして、笑うのだ。 「程々にしてくださいよ?程々に!」  そんな彼が望む理想の未来が、この先にあり得ることを信じて。
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