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本当はもっと、みんなに隠している本当の彼がいるのかもしれないのに。
それを知ったら失望して、この恋が全部消し飛ぶことだって充分あり得るのに――気づけばいつも目で追ってしまって、そのたび胸を締め付けられる日々なのである。本当にどうかしている。彼が、女性のみならず男性と喋っていてももやもやしてしまうだなんて。
そもそも彼のようなハイスペック男子なら、既に恋人がいてもおかしくない。少なくとも、彼に釣り合うくらいのハイスペ女子じゃなければ見向きもされないのは明白だというのに。
『なるほど。そなたは知ってしまったわけか、我が一族の秘密を』
画面の中にて。がっしりとした体躯にひげもじゃの海軍大尉が、低い声で告げてくる。
『ならば、致し方ない。お前には消えてもらうこととしよう』
『な、なんですって?』
『我が一族の秘密を知る者を生かしておくことはできんからな。尤も……お前が我が一族に入るというのなら話は別だが』
ああ、こう来るのか。うげえ、とつみきは舌を出す。明らかに、途中の選択肢を間違えた。この大尉の動向がおかしいからといって、こっそり追いかけるような真似などしてはいけなかったということらしい。
我が一族に入る、ということはつまり。ヒロインに対して、この大尉の嫁になれと言っているということである。が、ヒロインは既に心を決めた人がいる。ここでイエス、だなんて言えるはずがない。
――ていうか、私がイヤ!ここはAの“嫌です”一択でしょ!!
こんな男の手籠めにされるルートなんてろくなもんじゃない。即座に表示された選択肢のうち、嫌です、を選ぶ。瞬間。
『そうか、ならば仕方ない』
パァン!
「はあああ!?え、ここでお助けエンドないの、あっさり死亡なの!?」
思わず声を上げてしまった。深夜だったことを思い出し、ついつい部屋の中を見回してしまう。一人暮らしとはいえ、アパートの壁はあまり厚くない。迷惑をかけないようにしなければいけないというのに。
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