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<8・風を切って、走る。>
「おおおおおおおおまた決めた!」
「ストライカーだ、ストライカーがおるでっ!」
げせぬ。
「え、何であそこからのパスで追いつけんの!?」
「あいつやべえ、後ろに目でもあんのか?背後にノールックバックパスって」
「やった!またあのくるんってのやったー!」
げせぬ。
「おいケティちょっと来てみろって、マジでやべーから!地方大会出場レベルのうちのサッカー部手玉に取ってっから!」
「女子だろ?マジで?」
「しかもカーシュ家のお嬢様だってよ」
「何でそんな才能が今で埋もれてたの?」
げせぬ。
「ゴール!またゴール!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ガンガン入れるなあ!」
「女子がサッカー部入ってもいいんだっけ?」
「規則上は問題ないぞ。法律上でも。でも大抵体力が追い付かないんだけど……あいつは問題なさそうだな」
げせぬ。
「アウトフロントだ!?」
「どうなってるの?ねえあれどうなってるの?意味わかんないで誰か解説よろ!あの娘が凄いってことしかわかんない!!」
――何で、こうなってるの?
流石に、ちょっと呆れつつあるつみきである。
放課後になる頃には、もう完全に疾風=セシリアはサッカー部のニューヒロイン――という名の実質ニューヒーローとなっていた。あれだけ美人だし紅一点だし存在感も強いのに、敵チームの視界から外れるのが抜群にうまく、気づけば空きスペースにもぐりこんでいてパスを通されてしまうらしい。なんかステルスの魔法でもかかってんの?と疑われるレベルであるようだ。
そして、彼ないし彼女が一人で強引にドリブル突破するようなタイプの選手だったならともかく、実際は状況に応じて変幻自在にパスも出せる万能っぷり。司令塔としても機能するんじゃないのか、いやいっそ攻撃的な守備としてリベロに配置するのも悪くないのでは、なんてことも言われるほど。それに加えて気取らないし、男子とも平気な顔で堂々と(そりゃ中の人男性ですし)と話せる人柄がより好かれる結果になっているようだった。さらには。
「いや、さっきのはギルバートがいい場所にパス出してくれたからだよ!直前の合図も完璧だったし!」
「そ、そうか?セシリアにそう言って貰えると、なんか自信出ちゃうな……」
頬を染めて照れているチームメイト。これですよ、とつみきは思う。ナチュラルに相手を褒めまくる。現世でも本人が“自分の長所は、人の良いところを見つけるのが上手いところだから!”なんて言っていたがそれは本当だったらしい。
驕り高ぶるでもなく、感謝や喜びはストレートに表現する。そして、相手をとにかく褒める。疾風としてはおだてているつもりも嘘をついているでもなく、ただ思ったままを口にしているだけだろうというのは簡単に想像がつくけれども。
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