25人が本棚に入れています
本棚に追加
――このガッコのサッカー部って、地方大会に出るレベルでしょ。現世で言うところの、県大会で優勝して関東大会に出られるようなレベルってなわけで。……全然弱くないんだけどな。
この様子だと、疾風は本当にサッカー部に入部して、この世界での青春をエンジョイしてしまいそうな勢いである。いや、いつも鬱々とビクビクされるよりいいのかもしれないが、自分達が何が何でも生き残らなければいけないデスゲームの最中だというのを忘れてやしないだろうかと心配になってしまう。
もっと言えば、当たり前だが本来のセシリアは“少し気の弱い、でも優しい文学少女”なキャラクターである。サッカー部に入る、なんて選択肢が出るはずもない。既に疾風の行動のせいで、セシリア関連のフラグ管理がほぼ役に立たなくなってしまっている。勿論、疾風がサッカーに青春を捧げようがそうでなかろうが、学園全体の大きな事件には巻き込まれていく可能性が高いと思われるが――。
――異世界転移して、元サッカー部の男子がヒロインになってサッカーでチート無双ですってわけ?……それ、ラノベで読んでもあんま面白くなさそうなんだけど、いいのかな。
ああ、自分でも――良くないとわかっている。明らかにイラついているし余裕がない。疾風は好き勝手やっているとはいえ、この時間まで他の死亡フラグはなんだかんだと回避している。自分の言ったことはきちんと守って行動してくれているのだろうとはわかるのに。
思ってしまうのだ。
自分は一切この世界を楽しめてないのに、何で疾風だけ、と。
授業が始まった時からそう。アルセリア語の授業では、きちんと答えが言えないとクラスメートからの好感度が下がる。いざとなった時、クラスメート達が助けてくれるかどうかにかかっているのでこれは外せない。
また、実はこの初日の授業でも失敗すると死ぬ羽目になるのだ。化学の時間、お喋りをしてよそ見をしている隣の班の女子達を放置すると、理科室そのものが爆発する大事故に巻き込まれることになるのである。結果、ディアナはそこで死亡。それも、両足が吹っ飛ばされた状態で暫く苦しみ抜いた末に死ぬというとんでも展開である。絶対にそんな末路はごめんだ。
それ以外でも、セシリアに何かフラグが立っていないかとか、裏で良くないイベントが進行していないのかもチェックしなければいけない。休み時間のたびに掲示板を見に行ったり、こっそり別のクラスの疾風=セシリアの様子を見に行ったりとてんてこまいだった。はっきり言ってゲームを楽しむどころか、今日一日の授業でさえぐったりと疲れ切ってしまったかんじである。
正直に言って、こうしてベンチに座って疾風たちの試合を見ているだけでも結構しんどい。今すぐ横になって眠ってしまいたいほど。
「ディアナさん、大丈夫?」
「んあー……?」
最初のコメントを投稿しよう!