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唐突に、顔の上に影が。振り向けば、同じクラスの友人であるライラの姿が。このゲームでは、いかにもお嬢様ちっくな外見のご令嬢と、いやいやそんな髪型のお嬢様いねーべ、という外見のご令嬢が混在している。ライラはといえばどっちかというと後者に該当する見た目の子爵家令嬢だった。いやはや、令和のゲームとは思えない。まさかの縦ロールの金髪お嬢様が登場しようとは。ああ、でも実際に中世時代の欧州には、こんなかんじのお姫様キャラもいたりいなかったりするのだろうか。
生憎、学生時代は世界史の成績が壊滅していて留年スレスレだったのでわからないつみきである。
「今日はずっと、ピリピリしてらっしゃったものだから。何か、気になることでもおありだったのではなくて?顔色も良くないわ、眠れてないのでは?」
おっとりとお嬢様言葉で喋るライラ。髪型はいかにも、だが中身はやや天然気味の優しい女性である。ディアナのような性格のどぎつい女子相手でも一切物怖じしない、ある意味非常に強かなタイプと言えばいいか。
「あーうん……ちょっと、困ってることがあって」
ゲームの中の登場人物であるライラが、自分達の危機的状況を理解しているとは思えない。だから、本当のことを全て話すわけにはいかないのだが。
「最近、その……セシリアさんと、仲良くなりつつあるというか、なりたいというか。だから、急にサッカー始めちゃってびっくりしているというか、危なそうというか」
「ああ、そのことね。わたくしも本当に驚いてるのです。セシリアさん、とても大人しい方でらっしゃったと記憶しているのに、今日は朝からとっても元気で……まるで別人が乗り移ったみたいですわ。サッカーが好きなのに、恥ずかしいから隠していらっしゃったのかしら?」
「あ、はは……」
いや、本当に別人が乗り移ってるんですよ、とは言えない。
そりゃ周囲からすれば、急に人が変わったようにしか見えないだろう。幸い、今のところその変化は周りに比較的好意的に受け止められているようではあったが。
――私も、ゲーム内に来てまで神楽先輩がサッカーやりたかった、なんて知らなかったしなあ。
というか、元々凄いプレイヤーだったらしいとは聞いていたものの、現在は離れて普通のサラリーマンをやっているはずの彼である。趣味でサッカーを続けていた可能性もゼロではないが、少なくとも会社のクラブチームに所属していたなんてことはないはずだ。
ああ、見ている前でまた、彼が敵チームを綺麗に抜き去った。
あそこまで上手いならどうしてサッカー選手を目指さなかったのか、どうしても疑問に思ってしまう。
「確かに、女性が……それも良家のご息女がサッカーをやるなんて珍しいとは思いますわ」
フィールドを、どこか眩しそうに見つめるライラ。
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