<1・オフィスレディの恋煩い>

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 ヒロインはあっさり、大尉に射殺されてしまった。この乙女ゲーム、主人公のヒロインであろうと婚約者であろうと他のキャラクターであろうと、選択肢を間違えればあっさり死ぬことで知られているのである。乙女ゲームなのにそれでいいのか、と思わずにはいられないが。そのスリリングっぷりがたまらない、とややドM気質のお姉様たちからは大変好評であるようだった。  派手なヒロインの死に様を映した後、画面がゆっくり暗くなっていく。  鏡のようになった黒いテレビに反射しているのは、地味な分厚い眼鏡で丸顔の、非常に冴えない二十八歳女子の顔だ。一気に夢が醒めるような気分になる。自分も、この世界の美男美女のような容姿だったらどれほど楽しかったことだろう。まあ、主人公に該当する正ヒロインだけは顔が表示されない仕様ではあるが。 ――現実が悪いことばっかじゃない。実家には家族もいるし、恵まれない家庭に生まれたとかじゃないし、誰かにいじめられたこともないし。  それでも、時々思ってしまう。  華やかな美女になって、イケメンに愛されてみたい。こんなゲームのような異世界に行ってみたい、と。実際、こういう乙女ゲームをプレイする人間の多くはそういう願望を持っているだろう。特に、美女にモテればそれでいいことの多い男性とは違い、己が美人になってみたいという欲も併せ持つことが多いのが女性だ。大抵の少女マンガや悪役令嬢モノなどの異世界ファンタジーで、主人公やその転生先・成り代わり先が美女なのはそういうことである。不細工になっちゃいました、なんてケースはほとんど見ない。  片道切符である異世界転生がしてみたいとは思わないとは思わないが、異世界転移はしてみたい、なんて。そんなことを、思うだけなら罪ではないのではなかろうか。 ――私が美人なら、きっと神楽先輩にも愛して貰えるんだろう、し……。  何だか空しくなってきた。時刻も零時を回っている。明日も仕事があるのだから、今日はここで終わりにしようとゲーム機のスイッチを切った。  今の場面の攻略法は、明日サイトでも見て確認すればいい。自分で試行錯誤せず、他人が見つけた攻略法をチェックして言う通りにするなんて方法で、本当にゲームが楽しめているのかは少々怪しいけれども。
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