<2・仲良く、落下。>

3/5
前へ
/120ページ
次へ
 今度は、陰謀を暴くルートそのものをやめておいた方がいいかな、なんてことを思うつみきである。ツッコミながらもプレイをやめる気にならないのは、なんだかんだであのゲームが面白いと感じているからに他ならない。キャラクターは美麗だし、心の底から悪い人間なんてほとんど出てこないからである。そりゃ、嫉妬してきたり冷たく接してくるメイドや悪役令嬢はいるが、彼等だって言動をちゃんと聞いていれば根っからの悪人などではないとわかるのだ。 ――その悪役令嬢との百合ルートと面白そうだったんだよね。しかしあのルートも死亡フラグ回避が大変なんだよなぁ。今後はもう、プレイしながらメモ取っていった方がよさそう。ルート次第では何も起きない選択肢が、場合によっては死亡フラグに直結してるわけだし……。  そんなことを考えながら、パソコンをシャットダウンする。今日はノー残業デーなので、仕事の進みが遅くても早く帰らなければいけない。明日は残って片づけないとダメかなあ、とため息をついた。明らかに、仕事のペースが遅いことは自分でも気づいている。朝も昼も夜も、余計なことばかり考えているせいだ。  ゲームのことを想像している時はまだマシなのである。それさえ、疾風の声が聞こえてくると全部吹っ飛んでそっちに意識が持って行かれてしまう。高すぎず低すぎず、の優しい声。フレンドリーで親切な態度に、一体どれだけの女性社員が心をわしづかみにされているやら。 ――最初にお仕事教えてくれた時は、ただかっこいいな、くらいにしか思わなかったのに。何で、いつの間にかこんなに好きになっちゃったんだろう。  つみきも仕事が二年目に入り、彼に仕事をつきっきりで教えて貰う立場でなくなってしまった。こんなことなら、最初からこの会社に入っておけばよかったなんて思ってしまうほどである。そうすれば、お局の先輩や、家長やチーフと同じくらい彼と一緒にいられたのかもしれないのに。  四回目の転職で、やっとこの会社に来たつみき。  元々得意なことなど何もないし、不器用だし、メンタルがお豆腐だしでどの仕事も長続きしなかったのである。この会社でやっと、優しい先輩と同僚、自分に向いた仕事に巡り合ったのだ。幸運だと思う反面、何でもっと早く出会えなかったんだろうと感じてしまうことは少なくないわけで。  しかも、自宅から二駅しか離れてない超近距離の会社。募集に気づけなかった自分の眼のフシアナっぷりを呪いたくもなるというものだ。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加