<2・仲良く、落下。>

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――そう、コツコツやるのは得意なのにな。……このまま件数上げられないと、またクビになっちゃうかもしれない。なんとかしないと。それこそ、仕事できない社員なんて神楽先輩も嫌いだろうし……。  なんせ、自分はまだ契約社員。正社員でないため、向こうが契約を打ち切ってきたらそれまで、という立場なのである。正社員になるためには一定期間を優良社員として務め上げて会社に昇進を認められなければいけないのだ。なんとも自分には道のりの長い話であるが。なんせ、二年も過ぎたのに、未だに仕事をこなすペースが上がらないのだから。  ため息をつきながら書類を机の中にしまって、鞄を持って立ち上がったその時である。 「あ、ちょっと待って西岡さん!」 「!?」  その場で転びそうになった。なんと心を捉えて離さない誰かさんが、通路の向こうからこちらに早足で向かってくるではないか。相変わらず、時々ちょこちょこ転びそうにはなっているが。 「だ、だ、大丈夫?ど、どうしたんですか、神楽先輩!」  向こうの方が年上でも、先に会社に入っていたのなら先輩である。敬語を使うのは当然こちらだ。慌ててこっちから駆け寄ると、彼は“気を遣わせてごめん”と苦笑いしてきた。 「ほんと俺、いっつも何もないところで転んじゃうんだよな。この間は机の角が襲ってきたし、何でだろうな!」 「さ、さあ……?」 「あ、それよりもさ。ちょっと訊きたいことがあって」  彼は既にほとんどの社員が帰ってしまっていて、周囲で聞いている者がいないことを確認した後――少し声をひそめて、尋ねてきた。 「その……最近、悩みでもある?なんか、件数上げるペースが前より遅くなってるってチーフが言ってるの聞いちゃってさ。何かあったのかなって」  あああ、とつみきは頭を抱えるしかなかった。彼は指導を任される立場ではあるが、まだ皆の仕事を統括する仕事をしているわけではない。だから、全員が何件ずつ日々アップできているか、ということを把握する権限はないはずだが。どうやらそれを、チーフから聞いてしまったというやつらしい。多分、ちょっと気にかけてあげて、とでも言われたのだろう。 「元々、西岡さんはゆっくりだけど凄く丁寧に仕事してくれる人だって知ってるからさ。無理に速度を上げて、その仕事が台無しになるよりはずっといいと思ってるんだ。でも、最近はちょっと物思いにふけっていることが少なくないというか。仕事の速度が落ちた上、ちょっとミスが散見されるようになったって聞いて……何か悩みがあるのかなって思って。それとも、具合悪かったりする?」 「う……」
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