<2・仲良く、落下。>

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 心当たりはある。というか、ほぼ一つしかない。  でもだからって、恋をしているからです、なんて言えるわけがない。その相手は貴方なんです、とも。  彼が近くを通るたびに作業の手が止まってしまうし、誰かと話ているだけで会話が気になってしまう。女性社員と一緒にいると、まさか付き合ってるんじゃないかと邪推してもやもやしてしまい、自己嫌悪に陥る始末。付き合ってもいないのに、独占欲が強すぎて本当に嫌になってしまうのだ。 「顔色、ちょっと悪くないか?……最近寝れてる?」  ほんの少しつみきより背の高い彼。そっと顔を覗き込まれれば、自分も彼の顔を間近で見ることになる。  相変わらず、羨ましいほど肌が綺麗だ。睫毛も長い。なんだか、いい香りもするような。 「ご、ご、ごめんなさい。その、大したことじゃなくて、その」 「具合悪くするほどの悩みを、大したことないなんて言うなよ。俺で良かったら相談に乗るよ?西岡さんとは、これからもずっと一緒に仕事していきたいしさ!」 「そ、そんな……!」  あくまで仕事仲間への慰め、そうわかっている。でもこうやって気にかけて貰えるだけで、ついつい天にも昇る心地となってしまうのだ。  仕事において、こんな風に自分を認めてくれる人は過去どの会社にもいなかったから余計に。勿論、ペースが落ちていることを咎める気持ちはあるのだろうが、ゆっくりでも丁寧に仕事をしているというのは充分褒めてくれているつもりなのだろう。  ああ、この人の役に立ちたい。仕事だけでなく、プライベートでも――なんて。思ってしまう自分の、なんともあつかましいことか。 「ありがとう……神楽君」  真っ赤になって俯く、つみき。 「でも、私は本当に……」  そこまで考えた時だった。私は気づいてしまう。自分と彼の足元の床に、妙な黒い染みがあるということに。  カーペットに墨でも落としたのか、と思った。その黒い染みが、一瞬にして大きくなり、巨大な穴となるまでは。 「え」 「!?」  何が起きたのか、なんて考える余地はなかった。それはあまりにも一瞬の出来事。 「きゃあああああああああああああああ!?」  つみきは、疾風と共に。突如オフィスの床にあいた巨大な穴に吸い込まれてしまったのだから。
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