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「──なるべく早めに帰ってきますから。ちゃんと休んでてくださいね」
「うん。でもほんと、大したことないと思うし……。そんな気にしなくても大丈夫だよ」
朝目が覚めた時点では多少身体がふらつくような感じがあったが、今は薬が効いてきたのかそこまでつらくもない。今日が仕事のない日でよかった。明日は元々休みなので、今日休めば明日には回復して、今日できなかった料理やその他諸々の家事を頑張れるかもしれない。
大丈夫だと言ったはずなのに、佐藤君の表情がわずかに曇る。
「……佐藤君?」
「気にしすぎなのは俺じゃなくて、瑞希さんの方です」
「え?」
「病気のときは、休むことだけ考えていてください。もっと、頼ってくれて構わないので」
普段からこれ以上ないほど頼っているし、甘えてもいると思う。彼がどうしてそんなことを言うのか分からなかったが、熱のせいもあって上手く頭が回らず、ひとまず「分かった」と頷いた。
「じゃあ、そろそろ行きますね。何かあったら携帯にかけてください」
「はい」
佐藤君が仕事に出かけていくと、僕はベッドで毛布にくるまったまま目を閉じた。眠るつもりはなかったのだが、薬のせいかすぐに眠気がやってきて、いつの間にか眠りに落ちていた。
目が覚めると既に昼過ぎだった。用意されていた食事を温めて食べ、スポーツ飲料のペットボトルを冷蔵庫から出して部屋へと戻る。
当然その食事を用意してくれたのは佐藤君だし、スポーツ飲料を買ってきてくれたのも佐藤君だ。それだけのことを、当たり前にしてもらっている。これ以上どう頼ればいいのか分からないくらいだ。
「……本当は、僕の方が頼られないといけないのに」
恋人なので関係としては対等だが、それでもやはり年上である以上、自分の方がしっかりしていないといけないのではないかという気持ちはある。もっと言えば、こんな自分で本当に大丈夫なのか、と時々不安に感じることがある。決して人付き合いの得意な方ではないし、佐藤君以外に恋人がいたこともない。佐藤君との付き合いはもう今年で五年になるが、この先も彼が僕の側にいてくれる保証はない。側にいたいと思ってもらえるような何かを、はたして僕は持っているのだろうか──
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