第一章 消えた耳飾り 01

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 薬草茶に加え、果物の入った器を持って戻るころには、奥の宮は真珠色に照り輝いていた。  瑠璃色の器に、冷えた薬草茶が注がれていくのを見て、王妃は柔らかな笑みを顔に浮かべた。 「ここは豊かな国ね。ほしいと思ったものが、すぐに手に入る」 「まことに」 「ロトにいた頃は、ユーリやあなたが全てをこなしていたでしょう」 王妃の目に、明るい光がきらめいた。 「風見鶏の年を覚えてる?私は十八になったばかりで、あなたは生意気なおチビさんだった。あの時は雪がよく降ったわね……。温めた蜜酒(マートゥリ)が飲みたいといったのに、蜜飴(ミチュリ)ばかりを持ってくるのだもの。おかげで、風邪をひかずに冬を過ごせたわ」 シレンは少しだけ、頬を赤らめた。 「宮に入って間もない頃でしたから」 「そうだったかしら。その頃に比べれば、ずい分と達者になったわね。ユーリもほめていたわよ。あなたには語学の才能がある。ラトア語の上達も早いって」 シレンはますます小さくなって、縮こまった。ユーリは侍女たちの中では最年長で、最も身分が高い。ゆえに、侍女たちをまとめる立場にあり、誰かを特別にほめるようなことは滅多にしなかった。 「恐れ多いことです」 「私もそう思うわ。うちの侍女たちはみな賢いけれど、あなたは特に見どころがある。最近だって、東棟に通いつめているのでしょう」 「歴史を学ぶためですよ。国のことを知りたいのなら、書物に尋ねるべきだといいますから。しかし、簡単にはいきません。ラトアの図書館は広大なんです」 薄暗い書簡の間に入った時のことを思い出して、シレンは唇を尖らせた。 「司書たちも、私には冷たいですし」
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