第一章 消えた耳飾り 01

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「まあまあ。文官も戸惑っているのでしょうよ。古代ラトア文字を読みたがる人なんて、学者くらいしかいないでしょうに、あなたみたいな小娘が来るのだから」 「小娘ではありません。もう二十です」 「老官からすれば、十六も二十も同じだわ。……それにしても、惜しいことをしたものね。もう少しロトにいれたなら、あなたを女官にさせてあげることができたかもしれないのに」 王妃の顔に影がよぎる。 「今となってはもう、叶わぬ夢だけれど」 「殿下、そのようなことは。買いかぶりすぎですわ」シレンは慌てて言った。「女官など、私には重すぎる務めでございます。各国の賓客たちをもてなすためには、鋼のような心が必要でしょうが、私は思ったことがすぐに顔に出てしまう性質ですし……」 「そうね」 王妃の顔に、小さな灯火ほどの明るさが戻った。 「確かに、分かりやすいところはあるわね。さっきだって、ものすごい形相で左の腕をにらんでいたし」 「見ていらしたのですか」 「まるで、親の仇と言わんばかりの表情だったわ。……そんなに、この革紐が気に入らないの? 」 「ええ」 シレンは即答したあと、少しだけ考えを巡らせた。 「その、宰相様のお心遣いは大変ありがたいのですけれど、私は月の民として育ったものですから。それに、この飾りときたら、なんだか派手な香りがして」 本当は、宰相の態度が気に入らないだけだったが、そのことは黙っておくことにした。  王妃は少しだけ背を屈め、上品な仕草で革紐の香りを吸った。 「確かに、甘い香りがするわね」 「胸が詰まりそうですわ。治療師に相談して、外すことができるように許可を頂こうと思っているんです」 「まあ、あなたらしいわね」その声には、非難と称賛が入り混じっていた。「宰相様からの贈り物を拒むだなんて。他の子は怖がってそんなことはしないわ。その勇気が悪い方向に向かわなければいいんだけど……」 王妃は何かを思い出すように、言葉を切った。 「そういえば、陛下も同じようなことをおっしゃっていたわ」
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