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「国王が? 」
「ええ。初めてお渡りがあった時に、革紐を手首に巻いていたの。そうしたら、外してくれと頼まれたのよ。この香りが苦手なんですって」
王妃は寝台に腰を下ろし、すらりと長い足を伸ばした。
「もう半年以上も前のことね」
シレンは険しい顔で口を閉ざした。
シューラ姫、もとい第三王妃は王からも冷遇されている。婚礼の儀を済ませたあと、王は多忙を理由に、三か月以上も奥の宮に渡らなかった。その間、王妃が嘲笑の的となったことはいうまでもない。
(他の国に嫁いでいれば……)
父親似の美貌と、母譲りの聡明さを持ち合わせているシューラ。本来ならば、すばらしい賢妻となったはずだ。実際、即位式などで出会った他国の王子たちの中には、彼女を妻にと望む者もいた。
だが、いかんせん国が小さすぎた。
知恵を持たぬ国は、どんどんと大国に吸収されていく。ロトと友好関係を築いてきた国々は、次から次へと、怪物たちの口の中に呑まれていった。立派な歴史を誇る国もあったが、今では見る影もない。
シレンは衣の上から、半月石の首飾りを握った。
もちろん、ロトも例外ではなかった。だが、他国と比べれば、まだ手の尽くしようはある。
全ては自分たちの腕にかかっているのだ。
「殿下、今日は国王陛下が、北の地からお戻りになられるそうですね」
「ええ」
「せっかくの機会です。『妃のしるし』を身につけてはいかがですか?婚礼の儀に賜ってから、一度もお召しになっていないでしょう」
シレンの提案に、王妃は少しだけ眉を下げた。
「あの耳飾り、私の耳には大きすぎるような気がするわ」
「少しの辛抱ですよ」
「ピピタム(砂糖入りの餅)みたいに、耳たぶが伸びなければいいけど」
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