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ぶつぶつと呟く王妃をよそに、シレンは窓を覆う白い薄布を開いた。
太陽が輝いている。その光は金色に広がり、奥の宮の美しい庭をはっきりと照らしていた。
花々に混じって、一匹の小鳥が石のテーブルの上をよちよちと歩いている。なんと爽やかな朝だろう。
「さあ、殿下。湯浴みの支度をいたしましょう」
「もう起きなければいけないの? 」
シレンは励ますように微笑んだ。
「陛下はお昼までにお戻りになることが多いそうです。それまでに、しっかりと身を整えなければ」
王妃を湯殿係に託したあと、シレンは寝台を整えに、花の間に戻った。
金の縁どりがある姿見に、おそろしく眠たそうな顔をした娘が映っている。
そろそろ、他の侍女たちが交代にくる時間だ。王の出迎えには、ユーリに付き添ってもらおう。彼女なら、王妃を上手に守ってくれるに違いない。
シレンは細やかな装飾が施された、白い書き物机に触れた。ラトアに渡る際、嫁入り道具として王妃が持参したものの一つだ。ロトの伝統技術で、角を順番に押すと棚の底板が外れるよう、仕掛けがされてある。
宝石類は二番目の棚に隠してあった。
底板を外したあと、シレンはしばらく呆然と立ち尽くしていた。
耳飾りがない。上等な白木の入れ物ごと、消え去っている。宝石箱をひっくり返したところで、シレンは、はたと手をとめた。
眩く光る宝石の底で、何かくすんだものが見える。引っ張りだしてみると、それは粗末な木の筒に入った手紙だった。
シレンは震える手で、手紙を開いた。黄ばんだ紙の上に、無機質なラトア文字が並んでいる。
「この世で最も美しい女性、シューラへ……」
ーーあなたの愛に答えて、私の心の全てを捧げます。
木の筒の中には、安物の石で作られた、腕輪が入っていた。その石の安っぽい輝きに見覚えがあった。
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