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02
広い食堂の隅を、一人の男がふらふらと歩いていく。
長身だ。細身の体を外套で覆い、耳には赤い灼眼石が光っている。足取りはおぼつかないものの、意識はしっかりと保っているようで、瞳には理性的な光が宿っていた。
男はあまり日の当たらない、長机の端に席をとった。二席ほど離れたところでは、三人の司祭が、王の帰還についてしきりに語っている。
「それにしても、お早い到着でしたな」
「聞いたところによると、あと二十日は北の地に滞在する予定だったとか」
「第二王妃が恋しかったのだろう。陛下は、あの奥方をことのほか寵愛していらっしゃる……」
男は粥を飲みこみ、顔をしかめた。
頭が痛い。動かすたびに、じくじくとこめかみが疼く。やはり、昨日は無茶をしすぎたのだ。事前に花の蜜を摂っていたので、熱が上がることはないと思っていたのだが。どうやら、考えが甘かったようだ。
(いや、それだけではない)
あの時、窓辺に現れた女。『花の間』にいたのだから、おそらくは第三王妃の侍女だろう。ロト人としては珍しく、黒い髪の持ち主だった。彼女の視線に貫かれたとき、千の針に突かれたかのような痛みが全身に走ったのだ。
男はため息をついた。もうすでに、悪寒が体を襲ってきている。今夜は、ひどい悪夢に悩まされるだろう。
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