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その時、背後の方から聞きなれた声が聞こえた。
「よう、セトじゃないか」
男ーー、セトはしぶしぶ後ろを振り返った。
「ラルス」
しっかりとした顎をもつ男が、にこにこと笑っていた。セトと同じように黒衣に身を包み、赤い石の耳飾りをつけている。
ラルスはセトの隣に腰を下ろした。
「どうぞどうぞ。遠慮なく座ってくれ」
「まあ、そう嫌がるなって」ラルスはからからと笑った。「独りぼっちで飯を食うよりはマシだろ。……お、蜜粥か」
丸い目が、興味をひかれたかのように大きくなった。
「確か、透桃花の花びらも入れてあるんだよな。うまいか? 」
「悪くない」
セトはちらっとラルスの皿を見た。野菜と一緒に蒸した米に、とろとろになるほど煮込んだ肉の塊が盛りつけてある。
「厠に飾ってある花みたいな味がする」
ラルスは大きな声で笑った。
「そりゃいい。『司祭、わずかな穀物のみで生きよ』だな。聖典の言いつけは守った方がいいぜ。でなきゃ、俺みたいになっちまうからな」
ひとしきり笑ったあと、ラルスはセトの顔を覗きこんだ。
「顔色が悪いな。厄落としの煙でも吸ったのか」
「いや」
セトは短く答えただけだったが、相手がその先を聞きたがっているのに気付いて、さらに付け足した。
「キアンカの汁を飲んだ」
ラルスの顔から、さっと陽気さが消えた。
「ということはお前、魂隠しの儀式を行ったんだな」
「ああ」
「けど、何を調べたんだ?お前ならキアンカの汁を飲まなくても、気配を消すことくらい簡単にできるだろう」
セトが黙ったまま粥を食べるのを見て、ラルスは顔を曇らせた。
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