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ここのところ王は、結果が出ないことに対して、ずい分と苛立ちを覚えているようだった。そのお心も理解できなくはない。これだけ人手を割いているというのに、敵のことは何一つとして見えてこないのだ。まともな執政者なら、気が急いて当然だろう。
おまけに、王は若い。国が違えば、まだ学び舎にいてもおかしくはない年頃だ。聡明であることには間違いないが、おおよそ待つということを知らないのである。
(なれば言葉を慎み、そばで見守ってやるのが重臣としての正しい態度ではないか)
とはいえ、八つ当たりを食らうのだけは勘弁願いたかった。自分は責務をーー、この地位にいるかぎりにのみ生じる責務を、きちんと果たしているのだ。理不尽な小言は、どこぞの能天気なロト女にでもくれてやってほしい。
ふいに、炎が強く揺れる。王が立ち上がったのだ。背中に緊張の色が走った。
「何者か」
衛兵が素早く扉を開いて確認した。
「陛下、彼の者が参ったようです」
「通せ」
現れたのは、これまた若い男だった。黒い装束に身を包み、耳に赤い飾りをつけている。
男は二歩、三歩と足を進めると、滑らかな仕草で王の前に跪いた。
「大変お待たせしてしまい、申し訳ございません。ただ今、帰参いたしました」
「うむ」
「陛下におかれましてはーー」
「面を上げよ」王は厳格な声で告げた。「余計な口上はいらぬ。掟に背くことになるが、事情が事情なのでな。祖先の方々もお許しになるであろう。……して、結果は」
短い沈黙が流れる。顔を上げた男の目が、きらりと光った。
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