序章 北東の風

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「敵は内部にあり、と出ました」 「……」 「何者かが城に入り込み、情報を横流しにしているようです」 最悪の結果だ。大臣はぐっと奥歯を噛みしめた。王はといえば、落ち着き払った様子で椅子に座りなおしている。 「それは確かであろうな? 」 「残念ながら」 「我がおらぬ間に二度、都が襲われそうになったのも」 「偶然ではないと思われます」 「困ったのう」 王は長いため息をついたあと、苦りきった笑みを口の端に浮かべた。 「兄上を外に送ったことで、少しは楽になるかと思ったがな。不安の種は尽きぬ。これでは休みたくても休めまい。のう?大臣」 「はあ」 「して、そなたよ。つかぬことを尋ねるが……」王の瞳からふっと光が消えた。「従者は何処にいるのじゃ。報告が正しければ、三名ほど兵を伴っていたはずだが」 再び、短い沈黙が流れた。 「……この度は、まことに悲惨な旅となりました」 「まさか! 」 大臣は思わず、男のそばににじり寄った。 「『鷹の目』がやられたとでもいうのか⁉ 」 「三名のうち、一名が命を落としました。残りの者はなんとか逃げ出せたものの、いずれも深い傷を負っています。先ほど、治療院に運びこまれました。私もーー」男は外套の前を開いて、包帯に巻かれた腕を差し出した。「このように、無傷では帰ってこれませんでした。相手は相当な手練れのようです」 「そのようだな」 王が冷静に頷く。大臣がもの言いたげに彼を見ると、 「元より分かっていたことじゃ。こちらがこれほど手を尽くしているというのに、敵は未だに尾を見せぬ。『鷹の目』が逃げ帰ったとて、なんらおかしくはない」 と付け加えた。まるで痛くも痒くもない、といった様子だ。 (これは困ったぞ)
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